マルク・シャガール展③

~愛のリトグラフを集めて~
「マルク・シャガール展」

好評開催中~27日(日)まで

〈シャガールのリトグラフ〉

 

今回展示しているのは、シャガールが生前パリのムルロー工房などで制作したオリジナルリトグラフ版画が中心です。リトグラフ?ってなに?版画って学校の授業でやったやつ?とお考えの方もいると思いますので、少し解説を。

リトグラフとは?

具体的な技法などはネット等で調べていただくとして(笑)、シャガールのリトグラフとはどういうものか?ということについて書いておきます。シャガールはもちろんキャンバスに油絵の具を使用して描く画家さんです。美術館などで見られるのはほとんどそうですね。ただ、20世紀の前半から中頃にかけて、例えばピカソやマティス、藤田嗣治など高名な画家たちはそれだけでなく、工房でリトグラフの制作も多く手掛けています。

それらは当時の大きな画商が企画した挿画集や版画集という形で制作・販売されたものがほとんどで、例えば、藤田嗣治なども描いた「ラ・フォンテーヌの寓話」やマリー・ローランサンなどはオペラでも有名な「椿姫」の挿画集を描いています。そういった画家たちの中でもシャガールは特に版画制作に情熱を注いでいて、その生涯で2,000点もの版画を制作したと言われています。シャガールの美しい色彩、描かれる愛や恋人達、花束や天使などその作風はリトグラフにぴったりだったと言えるでしょう。

主な版画集をあげると、

「ラ・フォンテーヌの寓話」 1927年
「アラビアンナイトから四つの物語」1946年
「ダフニスとクロエ」1961年
「サーカス」1967年
「聖書」1956年
「エルサレムウィンドウ」1962年
「オデッセイ」1975年

などがあります。またその他にもパリのギャラリー・マーグが発行していた「デリエール・ミロワール」誌という当時の高級美術雑誌にも多くリトグラフを提供していて、これには雑誌にシャガールをはじめ当時の巨匠たちのリトグラフ作品がページに挿し込まれて販売されるという大変豪華なものでした。こうしたリトグラフはもちろん画家本人が実際に手で刷ったわけではなく、先述のムルロー工房などのような版画工房で、専門の職人が制作します。画家はその版画にするための画を描き、職人と綿密な打ち合わせをして出来上がったものにサインをするという手順になります。江戸時代の浮世絵と同じですね。このように最初から版画にするために描かれた作品を「オリジナル版画」と言います。そしてこれらのリトグラフは当初挿画集という形でセットで販売されますが、物語よりもその挿画の方が主役になってしまうこともしばしばで、現在ではそのリトグラフは一枚一枚バラバラにされて世界中で流通しているわけです。こうしてシャガールのリトグラフは世界中のファンに愛されているわけですが、それらは立派な美術品として需要があり、特に先述の版画集の完全セットなどはオークションでも高値がつきます。

たとえば2000年に開催された毎日オークションに出品された版画集「ダフニスとクロエ」(24点入り完全セット 奥付にサイン)は1650万円の値段がつきましたし、また単体でも直筆サインが入っていれば同開催のオークションでは「バスティーユ広場」(1954年)に360万円の値段がついています。今回展示している作品の中にシャガール本人のサインがある作品は残念ながらありませんが、リトグラフのクォリティはまったく同じものですので、是非この機会にシャガールの色彩あふれる世界に触れてみてください。

 

〈掲載作品〉 「落穂を拾うルツ」(1960年 「聖書のためのデッサン」より Mレゾネ№246)